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2006/09/04(月)
ハネウマライダー
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水深が浅くて、その上に海底に生えた海草が海面にもびっしりと浮かんでいる海に囲まれた島に辿り着いた。 そんな島でも、外から来る船をどうにか迎え入れなければ、島の経済が成り立たない。だから、沖に船を停泊させて、独特の船を使って、外から来る人々を迎え入れていた。
だが、その独特の船を操舵するにも、ある程度技術がいる。 それに、その船を借りるのにも当然、金が必要だった。 「ウェイバーがあるから、借りる必要はないわ。ログが溜まるまで、沖にいればいいし」と言うナミの言葉で、買出しに行く意外は、全員船に残る事になってしまった。 だが、ログが堪るまでおおよそ、5日は掛かる。 船長を始め、男達は当然、退屈する。 「…あんな簡単な作りの船なら、作れるんじゃねえか?」サンジのその一言で、すぐにウソップがその「独特の船」を作った。 それは、上空の風を掴まえて、それを推進力にして進む小さな小さな船。 「俺が乗る!」とルフィは早速はしゃいだが、サンジは首を横に振った。 「上手く乗れるかどうかわからねえ。落ちたら、即、海だし、この海草だらけの海は普通の人間でも厄介だからな。まずは、…そうだ、」誰が乗るか、の大騒ぎの中、サンジは仲間の顔をぐるりと見回し、「お前、」とゾロを人差し指で指差した。 「…俺か」面白そうな乗り物だと思っていたし、サンジと二人だけで遊ぶのだから、楽しそうだとは思っていた。 だからと言って、ルフィやウソップの様に大人気なく乗りたいと言うのも気恥ずかしくて、少し遠目に見ていたけれど、 名指しされて、正直、ゾロは驚いた。だが、正直、嬉しい。 自分を名指ししてくれた意図はわからないけれど、もしかしたら、サンジはゾロのそんな素直でない心持を悟ってくれたのかも知れない。そう思うと、ゾロは尚更嬉しくなる。 だが、そんな事は一切口にも態度にも出さない。
カヌーのように細長い船に乗って、サンジは白い大きな布と、それに結わえたロープを操って、上空の風を易々と掴まえた。 途端に、波を切るようにして、船は急に進み始める。 風の吹く方角、それを受ける凧をカヌーの上で上半身だけを動かしてサンジは船を制御する。 時折、馬の背に乗っているようにバシャンと船は大きく跳ねるけれど、サンジは楽しそうに空を見上げ、時折目を落として波の動きを見、そしてゾロをちらりと見る。
仲間の乗る船からその凧の船はどんどん遠くなる。 その代わり、島はどんどん近付いて来る。ゾロの頬に当たる潮風は夏の熱を孕んでいて、そして、時折、ゾロを驚かすように船は跳ね、その度にあがる水飛沫は涼しい。 空はどこまでも空色で、海はどこまでも煌いて、青ばかりで 塗りつぶされたような世界の中、サンジだけが向日葵の色に輝いて見え、眩しくて思わずゾロは目を細めた。 また、船が、サンジの制御を振り切ろうとするかのように乱暴に跳ねる。いや、それとも、サンジがわざとゾロをからかって、 そんな風に船を操っているのか。 「…何で、この船に俺を乗せた…?!」風の強さが、帆の代わりの凧を結わえているロープを伝ってビンビンと音を立て、波と風の音がゾロの声を遮るから、ゾロは大きな声でサンジにそう尋ねた。どんな答えが返ってくるのか、船が跳ねるのとを同じ様に、心が跳ねる様な言葉が返って来る事をゾロは少しだけ期待する。けれど、サンジは煙草を咥えたまま、 「…振り落とされても、死なない奴を選んだだけだ!」そう言って笑った。口では、そんな風に愛想のない事を言う。けれど、ゾロに向けた楽しげな、満足そうな満面の笑顔を見ていると、この笑顔を誰にも見せないのなら、何を言われても構わないとゾロは思った。
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