妄想絵日記
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2006年8月
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2006/08/15(火)
その島は、息をするだけで汗が吹き出るほど蒸し暑い島だった。
今や、世界一の大剣豪となったゾロは足の赴くままに旅をし、
その島に偶然辿り着いた。

暑くても、別に行くあてもない。平和そうな島で、糧になる海賊狩りも出来そうになく、ゾロは照りつける太陽に顔を顰めながら、海岸沿いの道を歩いていた。
(…退屈な島だな…魚でも食って、明日には出るか…)
そう思いつつ、昼寝が出来そうな日陰を探して歩く。
防風林らしい岸辺の林を見つけてから、ゾロは振り返った。
もう随分前から誰かが自分の後ろから歩いてくる気配を感じていたが、敵意は無さそうだし、(なにも照りっぱなしの暑いところで話をするのも億劫だ)と今まで無視していたのだ。
振り返ると、コックスーツを着た若い男が立っている。
急にゾロが振り向いたので、ビクっと体を僅かに硬直させた。「…何のようだ」「あの…ロロノア・ゾロさんですよね?」

そう言われて、ゾロはまじまじとその男の顔を見る。
日に焼けて、目が優しげに細く、愛想のいい笑顔を浮かべた青年の顔に、ゾロは見覚えがあった。
「お前…あいつのところで下働きしてた…」
そう言うと、その青年はますます嬉しそうに笑って、コクンと
頷いた。

「俺、…半年前にオーナーに出て行けって言われて…」
「まあ、クビになったんです」
「…クビ?」

ちょうど夕立も降り出し、青年はそれを口実にゾロを自分の店だと言う家に招いた。
狭いところだが、どうか泊まってくれと言うし、ゾロもサンジの事を聞きたくて、彼の家にやって来た。
田舎の素朴な、幸せな家族が住んでいて、とても寛げそうな雰囲気を醸し出している彼の店に招き入れられ、ゾロはまず冷たく冷えた酒を飲ませてもらいながら、彼の話を聞く。
「…オヤジが漁師で嵐に遭って死んで…母親から帰って来てくれ
って連絡が来たんです」
「でも、俺、オーナーのところでどうしてももっと腕が磨きたくって、絶対に帰らないって返事をしたんです」
「俺が一人前になって帰るまであと3年、借金してでもなんとか
暮らして欲しいって」
「そしたら、母親が直接オーナーに手紙を書いちゃって、俺、
オーナーに秘密にしてたのにバレちゃったんです」
「そしたら、オーナーはすぐに帰れって」
「でも、俺、絶対に帰りませんって言ったんです」
「必死に…それこそ、オーナーの足にすがり付いて、お願いしたんですけどね、オーナーも許してくれなくて」
「もうお前はクビだ、出て行けって言われて…」
「…あいつが?」そんな情のない事を言うだろうか。
俄には信じられない。だが、その青年はニコニコと笑っている。
早く、ゾロに話の続きを聞いて欲しい様だ。

「10日後に出る海軍の船に乗ってここから出て行け」
オーナーはそう言いました。
お客さんを運ぶ客船に乗れば、いつでも出て行けるのに、
わざわざ10日後の海軍の船に乗れ、と言うんです。
俺も不思議に思いました。
でも、その日の夜にその謎は解けました。
店が終わってから、オーナーは僕を呼んだんです。
「…お前の腕はまだ未熟だ。大した料理は出来ねえ」
「でも、一つだけ、誰にも負けない武器をやる」
「その武器一つで、お前は1人で家族の為に戦い抜け」
そう言って、オーナーは俺に魚や貝の焼き方を教えてくれました。
俺が生まれたこの島は、見ての通り田舎で洒落た料理を出しても誰も食べにきやしません。
だからこそ、新鮮な魚を絶妙な火加減、塩加減で焼いて、
それで飯を食わすことが出来れば、それが商売になるんです。
10日で俺にそれを教えてから、オーナーは俺を送り出してくれました。
クビだって言わなきゃ、俺がここには帰らないって思ったから
そう言っただけなんだって、今でもそう思ってます。
だって、ほら。

そう言って、青年は両手に小さな瓶を沢山抱えて持ってきて、
ゾロの前にそれを置いて見せた。
「…これ、オールブルーのレストランで使ってる調味料です」
「ジュニアさんの名前で送ってくるけど、なんの手紙も入ってない…だからわかるんです」
「これ、オーナーが送ってくれてるんだって」

そういわれて、ゾロはそっとその瓶の一つを手にとった。
指先にサンジの手のぬくもりを感じる気がする。
「…ジュニアなら何か手紙か何かを添えるだろうしな…」
「ぶっきらぼうなやり口だが、…確かにあいつらしい」

そう言うと、青年はまるで自分が褒められたように笑って、深く頷いた。
夕立はいつしか止んで、空は真っ赤に染まっている。

「…オールブルーのあの厨房ではもう働けないし、」
「時化の日なんかは誰もこなかったりするけど、それでも
俺、ちっとも辛くないんです」
「今でも、俺はオーナーの弟子で、あの人と繋がってる」
「そう思うだけで、力が沸いてくるんです」

自分とは違う形で、彼はサンジと絆を築いている。
きっと、ゾロの知らないサンジの顔もたくさん知っているのだろう。それとは逆に、ゾロも彼の知らないサンジの顔を知っている。
そんな事を思うと、またサンジに会いたくなった。
自分しか知らないサンジの顔を見たくなった。
「そうか。じゃあ、…帰ったら、お前に会ったって…
元気にしてるって伝えるよ」
そう言って、ゾロは酒を一口口に含んで、窓の外を見る。

オールブルーをも真っ赤に染める太陽が、水平線に沈もうとしていた。


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