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2006/08/11(金)
Earthsong
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湿気の少ない暑さは、バカンス気分で過ごすのにちょうどいい。 海原にポツンと浮かんだ小さな小さな無人島には、その小ささに相応しい慎ましい白い砂浜があり、仲間は子どもに戻って無邪気に波打ち際ではしゃいでいる。
昼食も済んで、夕暮れにはまだまだ時間がある。 腹も膨れた事だし、泳ぐのにも少し飽きた。 ゾロは、1人で船に戻り、甲板に寝そべって転寝をする。
小一時間もうとうとしただろうか。 (喉が渇いたな…)と思いながら、それでも起き上がるのがまだ 億劫で、太陽の眩しさにだた目を細める。 「全く、お前って野郎は…」 背中越しに聞こえるその声に、ゾロはゆっくりと起き上がって 振り向いた。敵意がないとは言え、全く近付いてきた気配を 感じなかった自分に少しだけ驚く。 「…海水浴に来て寝てるなんてまるで働きつかれたおっさんだな」「うるせえよ」 憎まれ口をたたくサンジに憎まれ口をたたき返す。 「…なんだよ、それ」ゾロはサンジが手に持っている華やかに 飾り付けられた椰子の実を顎で指す。 「…喉が渇いて目を覚ます頃だろ、と思って持ってきた」 サンジの言葉に、ゾロの胸の奥がトクン、と小さな音を立てる。 当たり前に思っていたこんな些細な事で、こんな風に胸の 奥にさざ波が立つ様な鼓動を感じるようになったのは、 一体いつからだろう。 仲間の喉を潤す為に、コックであるサンジが飲み物を用意する。 ここにもし、ウソップや、ルフィが1人で寝転んでいても、 きっとサンジは同じことをする。 その行動に、特別な意味なんてきっとない。 あるとすれば、仲間に対する思いやりだけだ。 サンジが仲間だと思う相手なら誰であろうと、平等に与えられるものだ。けれど、少し前ならそんな事すら考えなかった。 それが不思議と最近、サンジにこうして何かを与えられる度、そしてそれがまるで自分ひとりだけに与えられたと思う様な状況であった時に、ゾロの胸の中に柔かな空気の様に、嬉しい、と言う感情が広がる。 サンジに優しくされると、嬉しい。 そんな自分に今はまだ戸惑うけれど、それが正直な自分の 気持ちなのだから、目を逸らそうとも思わない。 「今、作りたてだからな。お前用に、特別に酒も入れといた」 「…俺用?」手渡された椰子のみにささったストローに口を つける寸前に言ったサンジの言葉に、ゾロの胸が一際高く、 トクン、とまた鳴る。 サンジの言葉、サンジの表情の一つ一つに、今までゾロが 知らなかった、ゾロの心の優しく柔かな部分が刺激される。 人を好きだと思う気持ち、心の中のその柔らかく、傷つきやすい場所が少しづつ、少しづつ、サンジに解されていく。
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