妄想絵日記
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2006/08/19(土) 苦行
「サンジ君、これ、とっても美容にいい薬草なんだって」
「干して、それを毎日煎じて飲めばお肌にとってもいいって
チョッパーも言ってた薬草なの」
「明日の朝、その農家のおじさんが船に届けてくれるから、後の事、頼んでいい?」
ナミにそういわれて、サンジは「は〜い、ナミさん♪」と嬉しげに返事をしていたのをウソップは側で聞いていた。

ここは、温暖で穏やかな気候の島。
薬草や新鮮な野菜がふんだんに手に入る。
しかも、この島では農薬などは一切使わない。

故に、蝶や蜂が畑の上にたくさん飛び交っている。

そして。翌日の朝、サンジのところに届いた刈り取ったばかりの
薬草の裏側には、小さなゴマほどの大きさの粒がびっしりと張り付いている。
それを見た途端、サンジの顔色が変った。

「それ…卵だぞ。虫の」ウソップがそう言うと、「分かってる…!」とサンジにギロリと睨まれた。
まるで八つ当たりだ。

だが、サンジは冷や汗をタラタラ流しながら、孵化した
青虫がいないかを注意深く探し始めた。

「気持ちの悪い虫はアウトだ」
空島に行く前、サウスバードを探していた森の中でサンジはそう言っていた。そのサンジが、青虫を探している。

「手伝ってやろうか?」と言っても、
「…いや、いい」とサンジは頑張っている。

口に入れるモノに対しての思い入れと、苦手意識がサンジの
中で葛藤している。
その様子は、本当に気の毒だった。

2006/08/15(火)
その島は、息をするだけで汗が吹き出るほど蒸し暑い島だった。
今や、世界一の大剣豪となったゾロは足の赴くままに旅をし、
その島に偶然辿り着いた。

暑くても、別に行くあてもない。平和そうな島で、糧になる海賊狩りも出来そうになく、ゾロは照りつける太陽に顔を顰めながら、海岸沿いの道を歩いていた。
(…退屈な島だな…魚でも食って、明日には出るか…)
そう思いつつ、昼寝が出来そうな日陰を探して歩く。
防風林らしい岸辺の林を見つけてから、ゾロは振り返った。
もう随分前から誰かが自分の後ろから歩いてくる気配を感じていたが、敵意は無さそうだし、(なにも照りっぱなしの暑いところで話をするのも億劫だ)と今まで無視していたのだ。
振り返ると、コックスーツを着た若い男が立っている。
急にゾロが振り向いたので、ビクっと体を僅かに硬直させた。「…何のようだ」「あの…ロロノア・ゾロさんですよね?」

そう言われて、ゾロはまじまじとその男の顔を見る。
日に焼けて、目が優しげに細く、愛想のいい笑顔を浮かべた青年の顔に、ゾロは見覚えがあった。
「お前…あいつのところで下働きしてた…」
そう言うと、その青年はますます嬉しそうに笑って、コクンと
頷いた。

「俺、…半年前にオーナーに出て行けって言われて…」
「まあ、クビになったんです」
「…クビ?」

ちょうど夕立も降り出し、青年はそれを口実にゾロを自分の店だと言う家に招いた。
狭いところだが、どうか泊まってくれと言うし、ゾロもサンジの事を聞きたくて、彼の家にやって来た。
田舎の素朴な、幸せな家族が住んでいて、とても寛げそうな雰囲気を醸し出している彼の店に招き入れられ、ゾロはまず冷たく冷えた酒を飲ませてもらいながら、彼の話を聞く。
「…オヤジが漁師で嵐に遭って死んで…母親から帰って来てくれ
って連絡が来たんです」
「でも、俺、オーナーのところでどうしてももっと腕が磨きたくって、絶対に帰らないって返事をしたんです」
「俺が一人前になって帰るまであと3年、借金してでもなんとか
暮らして欲しいって」
「そしたら、母親が直接オーナーに手紙を書いちゃって、俺、
オーナーに秘密にしてたのにバレちゃったんです」
「そしたら、オーナーはすぐに帰れって」
「でも、俺、絶対に帰りませんって言ったんです」
「必死に…それこそ、オーナーの足にすがり付いて、お願いしたんですけどね、オーナーも許してくれなくて」
「もうお前はクビだ、出て行けって言われて…」
「…あいつが?」そんな情のない事を言うだろうか。
俄には信じられない。だが、その青年はニコニコと笑っている。
早く、ゾロに話の続きを聞いて欲しい様だ。

「10日後に出る海軍の船に乗ってここから出て行け」
オーナーはそう言いました。
お客さんを運ぶ客船に乗れば、いつでも出て行けるのに、
わざわざ10日後の海軍の船に乗れ、と言うんです。
俺も不思議に思いました。
でも、その日の夜にその謎は解けました。
店が終わってから、オーナーは僕を呼んだんです。
「…お前の腕はまだ未熟だ。大した料理は出来ねえ」
「でも、一つだけ、誰にも負けない武器をやる」
「その武器一つで、お前は1人で家族の為に戦い抜け」
そう言って、オーナーは俺に魚や貝の焼き方を教えてくれました。
俺が生まれたこの島は、見ての通り田舎で洒落た料理を出しても誰も食べにきやしません。
だからこそ、新鮮な魚を絶妙な火加減、塩加減で焼いて、
それで飯を食わすことが出来れば、それが商売になるんです。
10日で俺にそれを教えてから、オーナーは俺を送り出してくれました。
クビだって言わなきゃ、俺がここには帰らないって思ったから
そう言っただけなんだって、今でもそう思ってます。
だって、ほら。

そう言って、青年は両手に小さな瓶を沢山抱えて持ってきて、
ゾロの前にそれを置いて見せた。
「…これ、オールブルーのレストランで使ってる調味料です」
「ジュニアさんの名前で送ってくるけど、なんの手紙も入ってない…だからわかるんです」
「これ、オーナーが送ってくれてるんだって」

そういわれて、ゾロはそっとその瓶の一つを手にとった。
指先にサンジの手のぬくもりを感じる気がする。
「…ジュニアなら何か手紙か何かを添えるだろうしな…」
「ぶっきらぼうなやり口だが、…確かにあいつらしい」

そう言うと、青年はまるで自分が褒められたように笑って、深く頷いた。
夕立はいつしか止んで、空は真っ赤に染まっている。

「…オールブルーのあの厨房ではもう働けないし、」
「時化の日なんかは誰もこなかったりするけど、それでも
俺、ちっとも辛くないんです」
「今でも、俺はオーナーの弟子で、あの人と繋がってる」
「そう思うだけで、力が沸いてくるんです」

自分とは違う形で、彼はサンジと絆を築いている。
きっと、ゾロの知らないサンジの顔もたくさん知っているのだろう。それとは逆に、ゾロも彼の知らないサンジの顔を知っている。
そんな事を思うと、またサンジに会いたくなった。
自分しか知らないサンジの顔を見たくなった。
「そうか。じゃあ、…帰ったら、お前に会ったって…
元気にしてるって伝えるよ」
そう言って、ゾロは酒を一口口に含んで、窓の外を見る。

オールブルーをも真っ赤に染める太陽が、水平線に沈もうとしていた。

2006/08/12(土) 約束の季節
彼は、その島で特に有名な人間だったわけではない。
事実、彼が家族にもなんの前触れもなく、突然海賊船に我から乗り込んで、突然姿を消してから20年経った今、彼を覚えているのはただ、当事、彼の下働きをしていたコックだけだ。

サンジは市場で偶然、そのコックと知り合った。
「オーナーは、オールブルーを探しに何も蚊も捨てて海に出た」
「奥さんも店も残して、本当に突然だった」
「奥さんは、ずっと店を守って、オーナーを待ち続けたが、」
「結局、オーナーが帰ってくる事はなく…1人寂しく、
岬の墓地に眠っている」
そう聞いたサンジは、その市場で買った荷物を全部ゾロに
押し付け、一人、その女性が眠る岬へ向かった。

何十年も、なんの便りもない夫をどんな気持ちで彼女は
待ち続けたのだろう。
そして、(…俺は、あなたに何を言おうと思って来たんだろう…?)とサンジはその墓標の前に佇む。
永遠の眠りについて尚、彼女は孤独だ。
サンジが花を手向けた墓標は、風雨に晒され、殆ど名前も読み取れない程薄汚れている。
彼女の魂は、今でもこの島で夫の帰りを待ち続けている。
この寂しげな墓標の前に佇んでいると、そんな風に思えてくる。
(マダムには、俺の思いも声も届かないかも知れないけれど、
…ご主人にはマダムはずっと待っていたって伝えます)

人に言えば、幻想だと馬鹿にされる。世界中の魚が全て棲む海などある訳がない、と鼻で笑われる。
かつて、この島には、そんな愚かな夢を信じて、命を賭けた男が
いた。そして、その男と、その男が見た夢のその両方を信じて待ち続けた女性がいた。
この岬は、そんな愚かな人生を送った人間が眠っている。
決して、光満ちる幸せな場所ではない。
なのに、サンジは不思議とこの場所にいると、物言わぬ彼女の
墓標に励まされている様な不思議な感覚を覚えた。
(…オールブルーは必ずあります。あなたなら、必ず、辿り着ける…)そう囁く声が耳にではなく、心の中に響いてくるような
気がする。

自分だけの夢だから、その価値の重さも深さも自分にしか
わからない。
つい最近までサンジはそう思っていた。
けれど、今は違う。

1人で来たはずの岬の墓地に立ち、サンジは潮風に髪を
撫でられながら振り返る。
そこには、運命に導かれるように出会い、抗う事の出来ない強さでサンジの人生を包み込もうとしている男がいる。

「…なんで、ここにいるんだ?」
明瞭な答えなど期待もせずに、サンジはゾロに向かって
穏やかに、魂を委ねるように、柔かく笑いかける。
媚びも愛想もない、ただゾロだけに、そんな微笑を向ける。
「…お前こそ、なんで1人でここに来た?」
そうゾロに聞き返されて、サンジもやはり明瞭になど答えない。

サンジの夢は今もうサンジ1人だけの夢ではない。
サンジの瞳が見据える水平線の先を、今はゾロも見つめている。
例え、その夢が叶えば、二人別々の道を歩み出す事になると
分かっていても、サンジがその夢を諦めない限り、
ゾロもサンジと同じ強さでその夢が叶う事を願い続けて行くだろう。

お互いの夢を自分の夢と同じくらいに大切に想い合える。
それを上手に言葉では言えずに、二人はどちらからともなく
歩み寄り、同じ事を考えている事を確認しあうように、
そっと唇を重ねた。

2006/08/11(金) Earthsong
湿気の少ない暑さは、バカンス気分で過ごすのにちょうどいい。
海原にポツンと浮かんだ小さな小さな無人島には、その小ささに相応しい慎ましい白い砂浜があり、仲間は子どもに戻って無邪気に波打ち際ではしゃいでいる。

昼食も済んで、夕暮れにはまだまだ時間がある。
腹も膨れた事だし、泳ぐのにも少し飽きた。
ゾロは、1人で船に戻り、甲板に寝そべって転寝をする。

小一時間もうとうとしただろうか。
(喉が渇いたな…)と思いながら、それでも起き上がるのがまだ
億劫で、太陽の眩しさにだた目を細める。
「全く、お前って野郎は…」
背中越しに聞こえるその声に、ゾロはゆっくりと起き上がって
振り向いた。敵意がないとは言え、全く近付いてきた気配を
感じなかった自分に少しだけ驚く。
「…海水浴に来て寝てるなんてまるで働きつかれたおっさんだな」「うるせえよ」
憎まれ口をたたくサンジに憎まれ口をたたき返す。
「…なんだよ、それ」ゾロはサンジが手に持っている華やかに
飾り付けられた椰子の実を顎で指す。
「…喉が渇いて目を覚ます頃だろ、と思って持ってきた」
サンジの言葉に、ゾロの胸の奥がトクン、と小さな音を立てる。
当たり前に思っていたこんな些細な事で、こんな風に胸の
奥にさざ波が立つ様な鼓動を感じるようになったのは、
一体いつからだろう。
仲間の喉を潤す為に、コックであるサンジが飲み物を用意する。
ここにもし、ウソップや、ルフィが1人で寝転んでいても、
きっとサンジは同じことをする。
その行動に、特別な意味なんてきっとない。
あるとすれば、仲間に対する思いやりだけだ。
サンジが仲間だと思う相手なら誰であろうと、平等に与えられるものだ。けれど、少し前ならそんな事すら考えなかった。
それが不思議と最近、サンジにこうして何かを与えられる度、そしてそれがまるで自分ひとりだけに与えられたと思う様な状況であった時に、ゾロの胸の中に柔かな空気の様に、嬉しい、と言う感情が広がる。
サンジに優しくされると、嬉しい。
そんな自分に今はまだ戸惑うけれど、それが正直な自分の
気持ちなのだから、目を逸らそうとも思わない。
「今、作りたてだからな。お前用に、特別に酒も入れといた」
「…俺用?」手渡された椰子のみにささったストローに口を
つける寸前に言ったサンジの言葉に、ゾロの胸が一際高く、
トクン、とまた鳴る。
サンジの言葉、サンジの表情の一つ一つに、今までゾロが
知らなかった、ゾロの心の優しく柔かな部分が刺激される。
人を好きだと思う気持ち、心の中のその柔らかく、傷つきやすい場所が少しづつ、少しづつ、サンジに解されていく。


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