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2006/07/09(日)
涙の法則・番外編
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ナミを助け出して、無事に海軍の要塞から脱出してから、 あっという間に1週間が経つ。 疲労困憊していたナミの体力も回復し、いつもと変らない 賑やかな日常がやっと戻り、ちょうど船は穏やかそうな小島に 着いた。
世の中も、自分の体の中ですらも全部紅色に染めてしまいそうに息を飲む程鮮やかな夕焼けの中をサンジは一人、そっと仲間から離れて、波打ち際を歩く。
ナミが無事に帰って来た事はとても嬉しい。 けれど、旧友を亡くした様なこの空虚な想いは何故、胸の中から 消えてくれないのだろう。持て余すには悲しすぎて、忘れてしまうにはまだ時間が足りない。 ただ、数日同じ厨房で雑用として働いただけの繋がりなのに、 悲しみとはまた違う寂しさをずっと感じている。 分かっているのは、名前も知らない、あの無愛想で態度の大きな見習い料理人の男と、(…もっと、一緒にいたかった)と 思っている事だけだ。 何故か、思い出せば思い出す程、最初からあの男はあの時、ああやってサンジの前から消える事が決まっていた様な気がする。 何故、そう思うのだろう。 一緒にいたいと思えるほど、近しい絆など何もないのに。
口調、包丁を持つ仕草、あのふてぶてしい態度… あの海軍の調理人の制服を着ていた男を思い出している筈なのに、脳裏であの男とゼフが重なる。 気が着けば、あの男の事ではなく、ゼフの事を思い出している。 そして、無意識にサンジは呟いていた。
「…もっと、一緒にいたかったな…」 ゼフと、どことなしにゼフに似たあの男と。 もう、一緒にいられない、と分かっているのに、そう思わずには いられない。願っても、願ってももう決して叶わないと分かっているのに、さようならと言えなかった後悔の替わりに、 サンジは太陽が真っ赤に燃えて沈んだ水平線を見つめながら、 同じ言葉をもう一度呟いていた。 「もっと、一緒にいたかったな…」
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