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2006/07/13(木)
フレンジャー
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内戦が終わり、もう二年近く経った。 王女ビビの毎日は、未来の女王としての勉強と政務に追い立てられて、あっという間に過ぎていく。
取り立てて、食欲が落ちた訳でもなく、体調も悪くない。 ただ、心がウキウキするような楽しい事が何もない。 愛想笑いや、優しく人に笑いかけるばかりで、自分が楽しくて、腹の底から笑う様な事が最近のビビにはない。
王女として、近隣の国から贈り物を貰っても、それがどんなに 高価で貴重なモノでも、心から嬉しいとは思えないのだ。 王女としてではなく、一人の人間として、友達として、接してくれる人間が側にいない。 寂しいとは思わない様にしているけれど、無邪気に笑って、皮を剥かずに果物を齧って、裸足で冷たい泉に足を浸して、 遠慮なく無駄口をたたいて…そんな風に、むき出しの素直な、ありのままの姿でいたい日もある。 けれど、そんな時間は全く取れない。 そんなある日。町からビビに荷物が届いた。 「港から届けられました」とにこやかにイガラムが届けてくれたのは、既に封が開けられ、中身が安全な事を確認された、 差出人の名前のない小さな箱だった。 「…誰からだったの?」と尋ねても、イガラムは 「マ〜マ…ご自分でご確認下さい」とニコニコ笑うばかりだ。 箱には、割れない様に丁寧に柔かな布で包まれた瓶がいくつかと、丁寧に折られた一枚の紙が入っていた。 【親愛なるビビちゃん】
「親愛なるビビちゃんへ。元気にしてるかい? 今、船番してたら、隣の船がアラバスタへ行くというから、 大急ぎで荷物を詰めた。本当は、皆それぞれビビちゃんに届けたいモノがあると思うんだけど、残念ながら、皆街に出かけてて、 船に残っているのは、俺だけだ。だから、俺の気持ちしか届けられないけど、俺が荷物を送った事は皆にも伝えておくよ。 船乗りが急かすから、あまり気の利いた事は書けなくてゴメン。 とりあえず、最近寄った南国の島の果物と野菜で作ったジャムを 送ります。きっと、アラバスタでは食べられないと思う。 色々と窮屈で大変だと思うけど、たまには甘いものでも食べて頑張って。ああ、それよりもこの荷物が、無事にビビちゃんの手元に届きます様に。それじゃあ、元気で。いつか皆で会いに行くよ。愛しいビビちゃんへ。 あなたの事が大好きな料理人より」
「…サンジさんたら」 ビビは嬉しくて、その走り書きの手紙をギュ、と胸に抱き締めた。 そして、イガラムににっこりと笑いかける。
「ねえ、イガラム。パパも一緒にお茶でも飲まない?」 「よろしゅうございますね。スコーンかなにかをご用意しましょう。そのジャムをつけて召し上がれるように」 「ありがとう」
久し振りに、心がウキウキと弾むのを感じながら、ビビは もう一度、サンジから届いた手紙を読み返した。
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