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2006/07/28(金)
ベスト フレンド
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(…これで何箇所目だ…。4…いや、5か) グランドラインのとある島。二度と来ないかも知れないから、もう名前も覚える気もない。船は、入り江に碇を下ろしている。 仲間が寝静まった深夜、サンジは岸に降り、砂浜に腰を下ろして、真っ黒な海を1人で眺めていた。
寒い海域にいる魚と、温かい海にしか生息しない魚。 その両方が捕れる海があると聞いて、この島にやって来た。 ログホースを手に入れる時も、ここまでやって来た航海の途中も、本当に困難続きだった。 だが。実際にたどり着いて見ると、ただ回遊する魚が 通過していくに過ぎない島で、稀に住み着く個体があっても、 気候の変化に耐え切れずに、生き延びる事殆どないと言う。 つまり、この島は「全ての海の魚が棲む」海ではなかった。
こんな経験は、初めてではない。 (…4…いや、5か)とサンジは指を折って数えてみる。 今度こそ…今度こそ。その度にそう思ってきたけれど、 その回数が増えるごとに、落胆の重さは増していく。 (そんな海は…世界中探してもある訳ないよ)と漁師達に 何度笑われたかわからない。 そして、こうして落ち込むたびに、その嘲笑がサンジの脳裏に 蘇える。 本当にオールブルーは存在するのか。 こんな時には、ふと、そんな迷いが心を過ぎる。 けれど、自分が信じなれば、その海へと続く航路は絶対に開かない。くじけそうになってはまた自分を奮い立たせ、そして先へと 進む力を蓄える。今までそうやって進んできたのだから、 これから先もそうやって進めばいい。 そう思うのに。(…さすがに、五回目ともなるとちょっと いい加減凹むな…) 自分一人の夢にこだわって、仲間に落ち込む姿を見られたくない。だから、サンジは誰もが寝静まった夜中心の中に 詰まった重たい失望を捨てに、この海岸で1人きり、海を眺めていた。
「サ〜ンジ!」 朝陽が出るにはまだ早い、深い深い夜、サンジは明るい ルフィの声に振り返った。 「…どうしたんだ?腹でも減ったか?」 何食わぬ顔をして、サンジはそうルフィに尋ねる。 「んにゃ。目が覚めただけだ」ルフィはいつもと変らず、 笑っている。 「…ここも違ったな」ルフィはそう言って、サンジのすぐ側に 立った。「そうだな。散々苦労掛けたのに、…悪イな」 さして悪びれる事もなく、…いや、悪びれない態度を装って、 サンジは相槌を打ち、再び前を向いた。 「進路を決めたのは俺だ。お前が謝る事じゃねえ」 「…それに、」 ルフィはかぶっていた帽子を取り、サンジが見つめている方向へと目を走らせる。二人の視線が水平線の向こうへと重なった。 「…正直、俺も今、どうしていいのか、わかんねんだ」 「…?何が」 ルフィの言葉の意味をサンジは成り行きに任せて聞き返す。 「…ここがオールブルーじゃない事を喜んでいいのか、 悔しがっていいのか…」ルフィは独り言の様にそう言った。 珍しく、自分の気持ちのコントラストが鈍くて、ルフィは 戸惑っている。意外に思って、サンジは思わずルフィの顔を 見上げた。 「…お前の船のコック、俺が引き受ける。お前がそう言ってくれた時、俺、凄エ嬉しかったんだ」 「でも、こうやってオールブルーかも知れねえ海に来る度に、 サンジは夢を叶えたら、俺の船を降りちまう、そう思ったら 正直、…俺、困っちまうんだ」 「サンジはずっと俺のコックでいて欲しい。でも、船を降りる事になっても、夢も叶えて欲しい。俺達が一緒にいるのは、俺達二人の夢を一緒に追いかける為なんだから、なんか言ってる事メチャクチャで、チグハグでデタラメな感じがするけど、俺は…そう思うんだ」 「オールブルーはある。見つかるまで、俺はお前を乗せて どこまででも行くからな」 (…なんだよ、慰めに来たのか?) サンジは何故か急に心が晴れやかになっていくのを感じた。 たどたどしい、拙い言葉だけれど、ルフィの真心の篭った言葉に 思わず、笑みが漏れる。 今まで、一度もこんな事を言った事はないのに、何故、 今日に限ってそんな事を言いにきたのだろう。 気まぐれなのか、それとも、サンジの気持ちを敏感に悟っての 事なのか。 問い詰めても、きっと本人にも分からないに決まっている。 「…なんか、美味い夜食でも作ってやろうか?」 「え、マジで!やったあ!」 サンジの言葉にルフィは無邪気に歓声を上げる。 サンジは立ち上がり、そして、またルフィと一緒に歩き出す。
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