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2006/12/06(水)
つまみ食いフェア 番外編その2
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「お前さんは、笑った方が可愛いのな」なんつって、軽口叩いたら、さっと真顔に戻っちまうんだけどな。 …なんつうか、そのウブな感じが新鮮で、男としてなんだか…たまんねえ訳だ。 わかるだろ?
いや、別にスケベ心が出てきたんじゃねえよ?俺みたいな男の側にゃ、そんな清純な女はいねえんでな、そりゃ、男としてゾクゾクするさ。何も不思議な事アねえ。 …おいおい、バーマンさんよ。ニヤけてる場合じゃねえよ。話はまだまだ先が長エんだ。
カールを拾ってから、…そうだな、1週間か、2週間か…10日ぐらい経った時だ。 気が緩んだのかねえ。俺は、風邪を引いちまったんだ。
能力者がかかった風邪が、普通の人間にうつると、風邪どころじゃ済まなくなるって言うが、まあ、とにかく俺はそれで寝込んでた訳だ。 寝ようと思えば、俺ア、いくらでも寝れる男だしな。
俺が休暇中で、家から一歩も出てねえって、どこで嗅ぎ付けて来たのか、昔、俺にとっ捕まった海賊の倅だとかなんとか言う輩が、手下を引き連れて親の敵討ちに来やがった。 カールはそいつを「どうせ、敵わないんだから帰れ」と説得したらしい。
海軍大将の俺を闇討ちしようって息巻いて、武装してる連中相手に、17歳の小娘がそう言って追い払おうとしたんだよ。
当然、そいつらはカールの言う事なんか聞きゃしねえ。強引に押し入ってこようとする。 その騒ぎを、俺はベッドの上で面倒臭エな、と思いながら起き上がった。 窓を開けて、カールに「家に入ってろ」といえば3秒でカタがつく。 そう思って窓に近付いた。
カーテンをこう…シャっと開ける。その時には、もう下は静かになってた。 …立ってるヤツは誰もいなかった。石畳の上に、男どもが折り重なって倒れて悶絶してるその真ん中に、カールが一人だけ無傷で突っ立ってる。
一体、何が起こったのか、俺にはサッパリわからなかった。 口が利けるヤツもいなかったしな。全員、カールに蹴り倒されたって事がわかったのは、 ずっと後になってからだ。
とにかく、カールって小娘は得たいが知れねえ。俺はそう思ったね。
大人しくてウブなのは見せかけだけで、身の上話も全部作り話かも知れねえ。 とんでもなく腕の立つ刺客かも知れねえし、俺の家に来たのも、本当は何か目的があってかも知れねえ。そう思ったが、とにかく俺はその時、熱があってだるくて、余計な事を考えるのがとにかく億劫でね。 カールを取り調べろ、なんて海軍に突き出せば、誰が俺の面倒を看てくれるんだ。 誰が俺にメシを作ってくれるんだ、誰が寝汗で汚エ俺の寝間着を着替えさせて洗ってくれるんだ。 凄腕の看護婦だか、家政婦だかが来たとしても、そんな年増の女に看病されるより、 目を開けたら、カワイイ女の子が心配そうに覗き込んでくれた方が元気にもなれるってもんだ。
そう思って、とにかく風邪が治るまでは何も気付かねえ振りをする事にした。
リンゴの摩り下ろしたヤツをスプーンで梳くって口に入れてくれたり、蜂蜜を溶かした、甘酸っぱい湯を飲ませてくれたり…。着替えのシャツはいつも石鹸の匂いがして柔けえし、夜中に口ン中が乾いて、咳で目が覚めたら側のソファで毛布被って寝てるカールが、 すぐに目を覚まして、「…湯冷ましでも飲みますか?」なんつって、小さな声でささやくんだよ、俺に。体は辛くても、そりゃあ、極楽だ。 俺ア、このまま、あと5年、カールを自分の好みの女に育て上げて、女房にしてもいいな、なんて熱で魘されながら、鼻の下伸ばしてな。 そうやって、…そうだな。三日ほど、ずっとベッドの上で寝たり起きたりしてたか。
カールのおかげで、俺もだいぶ良くなってきたのは良いが、俺の熱が下がり始めたら、今度はカールが熱を出した。 いや、熱が出てすぐに気がついたんじゃねえんだ。
夜中、俺は小便に行きたくなってふと目が覚めた。 カールは、ソファで丸くなって寝てる。
男だからな、今はまだ青臭エ小娘でも、ゆくゆくは女房に、と思った女だ。 しかも、家の中には俺とカールだけ。これでムラムラしねえヤツは男じゃねえだろ、違うか?
俺は、そうっと…ネコが歩くみてえに、カールに近付いた。
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