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2006/12/07(木)
つまみ食いフェア 番外編その3
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灯りを落せるだけ落して薄暗いとこでも、睫毛が長くて…何もかも小さくて、人形みてえなんだよ。
どうやって、この…その…なんだ。男のナニを、このカールに教えてやろうか、なんて 思いながら、俺は鼻息が荒くならねえように気をつけて、カールに顔を近づけた。 そしたら、びっくりするくらい呼吸が荒いんだ。 慌てて、掌をこう、…額に乗っけてみたらどうだ、すごい熱じゃねえか…!
それから、俺は…自分で言うのもなんだか、甲斐甲斐しくカールに尽したさ。 今まで、女にこんなに尽くした事はねえってくらい。 カールがしてくれた事を、全部とは言えねえが、濡れタオルを頭に乗っけたり、 悪寒がして震えてるから布団をたくさんかけてやったり、ストーブを焚いたり、 ミルクを鍋で温めて飲ませてやったり。 海軍大将の俺が、だ。 素性の知れない、小娘一人の熱が、一度上がった、下がったでキリキリしてた訳だ。 笑っちまうだろ。
…まあ、…もしかしたら、カワイイ子猫を拾った。それを飼った。 その子猫は、気まぐれで、じゃれ付いてくるわけでもないし、ただ、姿が可愛らしくて、側にいるだけだ。けど、なんとなくほっとする。それだけでなんでも許せた。
そんな子猫が病気になって可哀想だから、看病した。それだけの事だったかも知れねえ。
ああ、そうだ。カールは迷い込んできた子猫だと思えばいいのか。
とにかく、俺は俺にしては睡眠時間を削ってでも、カールを看病した。 熱が40度も出て、ゼイゼイ言ってる姿が哀れでな…。 医者に診せたのかって?もちろん、診せたさ。 だが、普通の人間が、能力者からの風邪をうつされたら、なかなか薬が効きにくいらしい。劇的に熱が下がるとか、そんな効果は出なかった。
「すぐに町の病院に入院した方が良い」俺はそう判断して、カールにそう言った。 「もちろん、お前サンは今、俺のメイドだ。金の心配は要らない」そう言ったら、 「はい、じゃあ、明日になったら入院します」、よほど辛かったんだろうな。カールは素直にそう答えた。
ところが、だ。翌朝になって、病院に連れて行こうと待っていても、カールはいつまでも起きてこない。 おかしい、と思ってカールに使わせていた部屋に行ったら、…、いない。もぬけの殻だ。
整理整頓はされてるが、使いっぱなしのままだった。 今、ちょっと外に出かけてる、って感じだった。
神隠しにでもあったみたいに、カールは突然、いなくなった。 探そうにも、カール、と言う名前と顔しか知らないじゃ、どうしようもねえ。 近隣の島の孤児院にも問い合わせたりしたが、カールなんて娘はどこにもいなかった。
…最初から、何もかも嘘だった。 それがはっきりしたのは、…笑える事に、なんと、昨日だ。
…これは極秘事項なんだがね。俺の家の地下には、海軍が、海賊どもから取り上げたエターナルホースが保存してある。 海賊どもが宝を隠したと言われているが、未だにそのお宝が見つかっていない島のエターナルホースだ。
その事を知っているのは、今、…海軍の大幹部と…バーマンさん、あんただけだ。 あんたの口が固いのは、長い付き合いで知ってる。だから、こうして愚痴ってるんだ。
一月に一度、俺はそのエターナルホースの数と保存状態を確認しなきゃならねえ。 無駄な仕事だと思うが、まあ、気の小さな年寄り連中を安心させるためだからな。
俺は、昨日、そのエターナルホースを数えてみた。 そしたら、…どう数えても、一つ足りねえ。
保存してある部屋には当然、鍵がかけてある。 その鍵穴に、ほんの少しだけ、パテがこびりついてた。
鍵穴にパテを詰めて、鍵の型を取って、鍵を作る。盗人の手口だ。 だが、盗んだエターナルホ-スは海賊の宝。海賊の宝を狙い、奪うのは、やっぱり海賊なんだ。
エターナルホースを盗んだのは、カールだ。 …俺が拾った、青い目の黄色い毛並みの子猫は、海賊だったんだよ。
そうとも知らずに…俺とした事が、全く、情けねえ話だよ。 こんな話、みっともなくて誰にも話せねえ。
ま、聞いてくれてありがとうよ。さて、酒も飲み終わったし、これ以上雪が積もらん間に、俺もそろそろ、ねぐらに帰るか。
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