妄想絵日記
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2006/10/03(火) 妄想劇場 その2
サンジは、少しだけ驚いた顔をして振り返る。ただランタンだけをテーブルに置いて、椅子に腰掛けていた。その温かい光に照らされたサンジの顔がやんわりとゾロに向かって微笑む。それはいつものからかう様な軽薄な笑顔の筈なのに、何故か今、目に見えているその表情に目が釘付けになり、ゾロは目が離せなくなった。
それだけではなく、心臓がドキリ、と妙に高鳴り、その次の瞬間には何かに胸倉を掴まれて、一瞬でガンジガラメにされたかと思うほど、体が急に強張った。

「…なんだ。もう酒は一滴もねえぞ」
「いや…酒は…」

聞きたい事があって、言いたい事があって、ここに来た。
ここに来たのは、サンジに用があったからだ。今、見ているこの穏やかで優しげな顔を見てどきまぎする為ではない。
ゾロは、一度、しどろもどろになり、返事を返した言葉を飲み込み、仕切り直す。
だが、本当に言うべき言葉も、聞きたかった言葉も素直に口から出てくれない。

「…ここで何をしてた?」と、思いがけないほど全く予想も付かない言葉が勝手に口から出て行く。
「…また、会えた事を喜んでた。それから、…この場所の居心地の良さに感謝してた」
「そうか…」

ほっとけよ、とか、てめえには関係ない、と言う言葉が返ってくると思っていた。
なのに、素直に、静かに返されてゾロは余計に自分が言いたかった言葉が頭から飛びそうになる。だが、そんな自分の心の動きをサンジには悟られたくない。

「…何か用か?」サンジは、ただそう尋ねる。酒もないのに、ゾロに座れ、とは言わない。酒がないのなら、ゾロはすぐに出て行く、二人きりで静かに話す事などない、と頭から思っている。
「…お前」黙り込んでいると、余計に言葉が出辛くなる。
今、言いたい言葉を言い澱んで、飲み込んでしまったら、この先もずっと何も言えなくなる。ゾロは、思い切って意地や戸惑いをかなぐり捨てた。

「…渦が出来るって分かってて、門を閉めただろ…あれは、ナミなら切り抜けられると思ってか」
ゾロの言葉に、サンジはキョトンとした顔をし、首を傾げる。何をいきなり言い出したのか、訝しく思って当然だ。
だが、ゾロは続けて聞いた。
「…あの爆風の中でもあの距離でも…、ウソップなら間違いなく、ロビンに全部の鍵を届けられると思ったのか」
「…失敗するとは思わなかったのか…?」
「もし、失敗したらどうなるか、一度も、一瞬も考えなかったのか?」

どんな答えが返ってきて欲しくて、こんな事をわざわざサンジに尋ねているのか。
ゾロは自分でも分からない。言い終わって、答えを急かす様に、真っ直ぐにサンジを見据える。
怪訝な顔をしていたサンジの表情が変わる。
質問をしたゾロですら、何故、そんな質問をしたのかわからないのだから、質問をされたサンジにしてみれば、どうして今、この状況でそんな事をゾロが聞くのか、分からなくて面食らって当然だ。唖然とし、ゾロを見返している。

「…なんでそんな事を聞く?」「いいから、答えろ。お前はワケも理由もわからねえ状況でも、ロビンを駅で待ってたな?それもどうしてだ」

サンジは、いつも、どんな時でも仲間を信じている。
別れの言葉を言われても、裏切られたと思う様な状況を目にしても、信じ抜いた。

そして、その強さはただ言葉や気持ちの上だけの事ではない。
当たり前だがゾロにしても、サンジ同様、ウソップの狙撃の腕も、ナミの航海士としての腕ももちろん、認めている。
だが、あの絶望的な戦況の中で、その二人の才能を信じた上でサンジは行動した。
どれだけナミの航海術が素晴らしかろうと、ウソップの狙撃の腕が奇跡的であろうと、
サンジがそれを信じていなかったら、全員が海の藻屑と消えていた。

ロビンをウソップをナミを、サンジは毛ほども疑わず、信じ切った。
その信念の強さに、何故かゾロは嫉妬の様な、敗北感の様な気持ちを覚える。
(俺より、こいつの方が、仲間を強く信じてる…)
そう気がつかされた気がして忌々しく、悔しかった。

「…最初の質問の答えは…そうだな、」
そう言って、サンジは真っ直ぐにゾロに向き直った。

「…俺は知ってただけだ」そう言って、サンジはもったいぶり、ゾロを焦らす煙草を灰皿に押し付けた。そして、新しい煙草を箱から取り出すと、ライターで火を着け、
一息、ゆっくりと吸い込む。

その見え透いた目論見にまんまと乗るのは悔しいが、ゾロは「…何を知ってたんだ」
と尋ねる。
サンジは、ゾロが自分の手の上で転がり始めた事が楽しいのか、
「…ウソップが超一流の狙撃手だって事、」
「ナミさんが超一流の航海士だって事…俺はそれを知ってた。ただ、それだけだ」と、満足げに目を細めた。

(続く)

2006/10/02(月) wj妄想劇場 その 1
騒ぐだけ騒いで、すっかりそれにも満足して、突然、船は静けさに包まれた。
海は、安らぎを優しくゆれ与えるように穏やかに凪いで、空には満天の星がまるで降って来るかのように煌いている。

ゾロは、空を一度だけ振り仰いで、口から深く息を吐いた。

浮かれて騒いで、でも、その間、ずっと心の奥に引っかかっていた何かがある。
それは罪悪感の様でもあり、微かに敗北感にも似ている。また、何かに急きたてられている様な焦燥感も感じていた。

それは、いつも、サンジの姿を見、サンジの声を聞くと胸の底にあった筈なのに、急に浮上してくる。それにイラついて、大騒ぎの大宴会の中でも、下らない事で突っかかってしまった。いつもどおりのじゃれ合うような喧嘩だったのに、そんな子供じみた行動が、何故か今夜に限って自分でも許せない。勝っても負けてもいないのに、何故か気が咎めていた。

仲間皆が、安心しておのおの好き勝手な場所で静かに眠っている今でも、サンジは一人起きている。そして、そのサンジがどこにいるかをゾロは探し回らなくても、わかっていた。

そして、そこへと足は急いでいる。
それなのに、胸の内は、(面を見たところで、…俺は、あいつと、一体…何を話す気なんだ)と躊躇っている。上っ面の気持ちと、まだ言葉にも出来ていない本音とがチグハグなまま、
ラウンジの前で立ち止まった。
息を潜めるかのように、灯を落としたランタンの光が見慣れた丸い窓から漏れている。
ゾロは、覚悟を決める様に、また空気の塊をフウ…と口から吐いて、ラウンジのドアを開けた。


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