Smomo’s Flower Diary
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2010/08/08(日) 生ましめんかな
「生ましめんかな」
    栗原貞子

  こわれたビルディングの地下室の夜だった。
  原子爆弾の負傷者たちは
  ローソク一本ない暗い地下室を
  うずめて、いっぱいだった。
  生ぐさい血の臭い、死臭。
  汗くさい人いきれ、うめきごえ
  その中から不思議な声がきこえて来た。
  「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
  この地獄の底のような地下室で
  今、若い女が産気づいているのだ。
  マッチ一本ないくらがりで
  どうしたらいいのだろう
  人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
  と、「私が産婆です、私が生ませましょう」
  と言ったのは
  さっきまでうめいていた重傷者だ。
  かくてくらがりの地獄の底で
  新しい生命は生まれた。
  かくてあかつきを待たず産婆は
  血まみれのまま死んだ。
  生ましめんかな
  生ましめんかな
  己(おの)が命捨つとも

「吉永小百合 被爆65年の広島・長崎」
原爆詩の朗読から抜粋


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