すやまとしおのスマイリーでいこうっ !!
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2007/10/06(土) スマイリーを消した男!
少々強めの風だがヒンヤリと心地よく流れる夕方だった‥‥

車から降り上空を見上げると、斑模様の雲が空を埋めつくしている。
男は ひとつ大きく深呼吸し、バッグとシューズをぶら下げ 陸上競技場に入っ
ていった。
平日は多くの学生や陸上教室の人々で賑わう競技場も土曜日ということで数人
の一般ランナーしかいない‥‥

男はランニングシャツとパンツに着替え、準備運動をしている。
  ‥‥そんな男にそっと近付く ひとりの女性‥‥ 歳の頃なら20代後半‥‥
男の横に立ち、はにかんだような表情で声をかけた。
「あのぉ〜‥‥ 素敵ですね‥‥」
男は彼女を見上げ、少し照れながら‥‥『いや〜 とんでもないっすよ〜‥‥』
「この競技場初めて来ましたが、ほんと、素敵〜 ‥‥ 周りの景観、特にすぐ
横を電車が走るなんていい感じです。」
『 ‥‥‥ デスヨネ‥‥ 』  ‥‥ 笑うしかなかった‥‥。
 
市外から来られたようで、旦那さんがトラックを ゆっくり走っておられる。

男はあまり人のいないトラックを見つめ決めた‥‥ 『 10キロ、25周に
チャレンジしてみよう‥‥』
先週、やっとの思いで5キロの距離を走り抜いたばかりだ‥‥ この5キロでも
大変なことであった。 走った後、少し腰を傷めていた。
男は、無謀なチャレンジ、ランを始めてまだ一ヶ月、10キロは早過ぎるんじ
ゃないのか‥‥ 不安もよぎった。
男は職業柄、人前では美しく眩しいスマイリーでいなくてはいけない。
先の5キロは、たくさんの人の前でのチャレンジ‥‥ 大汗をかきながら呼吸を
荒らし、苦しさに押し潰される中でのランであったが、強面(こわおもての)
のスマイリー‥‥ 疲れが倍増したのを思い出していた。
『今日は10キロ‥‥ スマイリーどころの話ではない‥‥ 思う存分、悲愴感
に満ちた表情を出しても大丈夫だ‥‥ やるしかない。』
  ‥‥ ということで10キロのチャレンジを決めた訳である。

ゆっくりと走り始めた‥‥ 足が重い‥‥ 肉離れした箇所に違和感が‥‥
3キロを通過‥‥ 呼吸が辛い。『5キロもたないのでは‥‥』
男に焦りが‥‥
10周、4キロを過ぎた頃、やはり腰にきている。 ふと大空を見上げた‥‥
夕焼けが始まっている。 斑の雲に色が美しく滲み込んでいるではないか。
『ああ、素敵な情景だ。こんな中でチャレンジしている‥‥ 素晴らしい時空に
いる‥‥』 男は、心の中に 小さな元気が溢れてくるのを観じていた。

不思議な瞬間が訪れて来るのに そう時間はかからなかった。
12周半、5キロを越えたあたりで 急にジンワリと身体と呼吸が楽になってき
た。 そう、ランニングハイである。
慣れれば慣れる程、早めにやって来るハイ状態であるが、10年もランのない
男、まして始めてからまだ一ヶ月‥‥ いたしかたない。
そのランニングハイのおかげで ついに8キロまで届いた‥‥ しかし、両足の
ふくらはぎと腰が 限界に近いのを教え始めている。

男は祈った‥‥『あと5周だ‥‥ ここまで来たら諦められない。』
苦痛にゆがむ顔‥‥ 大丈夫だ、人はパラパラと増えたが、少ないぞ。
スマイリーはいらない、集中、集中!

来た‥‥‥ ラスト2周半‥‥ 1000mだ。

薄暗さが漂い始めた周囲風景に目をうつしながら、歯をくいしばる男‥‥
ペースを上げている。 膝がよく伸びている。呼吸に問題はない。流れ飛ぶ汗、
汗にビッショリ濡れたTシャツが逆に気持ちいい。一気に10キロの距離を克服
してしまうのか‥‥ この男?

ラスト100m‥‥ ゴールラインがハッキリと見えた。
ここはスマイリーでしょう! 柔らかな微笑みに煌めく 紅い夕焼け。
オリンピックや世界陸上でいえば、一番注目される瞬間である。
『両手を高々と上げてみようか‥‥ メガネをはずしてみようか‥‥?』
気分は もうテレビ中継の中のトップゴールである。

自分自身、感動のゴールインである。
何度も何度も諦めかけた。身体のせいにして、言い訳をつくってやめてしまお
うとも考えた。 襲いかかって来る壁に打ち勝った‥‥。
まだまだ‥‥ たかが10キロではあるが、ここまで厳しくなった距離、体力に
改めて驚いた男。
しかし、一歩一歩である。 フルマラソンも、この10キロがなくては走れない。
自分の心身に大いなる満足を満たしていた男の表情はキラキラと輝いていた。

グランドでジョッグをしていた人々が歩み寄って来る。
「一時間近く走っておられましたねぇ〜 たいしたもんです! 今度いっしょに
走らせて下さい!」    笑顔満開の男がいた。

『来月の終わりまでに、何とか20キロまで もっていこう‥‥』
男のチャレンジは始まったばかり、まだまだ続く。 とてつもない距離が待って
いる。

すっかり暗くなった競技場‥‥‥ 男の姿は 静かに消えていった。 

 ‥‥ アリャ〜、腰が痛いニャ。 これも事実。 でもスマイリーは消さない。

 『 10キロ達成! 』


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