|
2007/04/23(月)
ホームレス画家のホームレス訪問記 L
|
|
|
大道で商売する場合、八目ウナギみたいに八つの眼が必要である。客相、流れ、露天、警官の様子、隣の商売、天候等等で見る為に・・・・
天気は暑いが暑さを凌ぐ木もないので我慢することにして、それ以外は申し分ない場所である。ただ、離れているが新しく店開きしている露天の人がちょっと気にかかるが、贅沢は言っておれない。早々「嵐」の二ノ宮や大野などの似顔絵を並べ始めると、おかしなコスチュームを着た女の子の悲鳴にも似た歓声があがる・・・・
「ああ、お嬢ちゃん。胸に「O」のマークをつけているから大野君ファンだね。おっちゃんも大野君が好きだよ。しかし、お嬢ちゃんのお顔もいいね。何故、おっちゃんの好きな顔に生まれてきたの?」 大道では腕でかせぐより口でかせぐ、ぞくにいうのをタンカ売だ、というのだ。」
そこで「女は愛嬌、坊主はお経、漬物ラッキョウでおじさんもお勉強しちゃう。六枚三千円を二千円・・・」
もうこうなれば黒山の人だかりで、前で吉本の新人タレントだろう・・・ 「ピーちゃん、今日はいい天気やな」 「何言うてんねん、日干しになるわ、このノーテンキ」と言っていたのが何処かへ行ってしまった。こちとらは船場太郎直伝の猛者とは知るまい。
「サーサ、イラサイ。イケノコイ」だ。 「サーサ、イラサイ。イケノコイ」 「何!! 半額、では顔は半分になるよ」 「そんな可愛い顔して無茶言わんといて、それにしてもお嬢ちゃんは何故、私の好きな顔に生まれてきたの・・・」 「サー買ったり、買ったり。親は子に、子は孫に伝えたいこの感動を・・」
こうした冗談を適度に入れて商売するのである。 ある落語家が言っていたように「緊張と緩和」を上手く取り入れるのだ。
それと「ああ、ニノちゃん。六月生まれの江戸っ子だね。お嬢ちゃんはダイちゃん・・。彼も絵を描くのが好きだ。それに書道四段だったね。まいった、まいった。おじさんなんかは書道はカイダンだよ。ハハハハハッ。そこのお姉さんはアイバ君、おお、彼はクリスマス・イヴ生まれだったな」
仕事をする前は必ず「嵐」のメンバーの下調べしたうえで商いすると親近感も増し、ますます売れる。もう、手持ちの絵も少なくなったので手伝ってくれていたホームレスのサブ爺さんと車上ホームレスのT君が車に絵を取りに行った。
それにしても暑い。ノドはカラカラで日干しになりそうだ。こういう時、俺は俺の親父や爺さんがガダルカナルで、ニューギニアで、インパールで戦かった事を想いだすのである。水だけでなく、食料もなく、マラリアやアミーバ赤痢、それで生き延びても蛾死で数百万の兵士が死んで逝ったことを思うと大抵のことは我慢出来るのだ。
「ああ、お嬢ちゃんは大野くんね。カルダンの袋、奮発しちゃおう・・・」 「・・・で貴方は・・・?」
「ヤイ、ヤイ。カルダンかブツダンかバクダンか知らんがオッサン誰に断ってやってやがるんだ・・・!!」
「さ・・て、来なすった。」 可愛いお嬢ちゃん連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、華やいだ空気から一変重苦しい雰囲気だ。 俺はイーゼルに向かいながら、背中で一人、二人、ウッ、七・八人いるな、素早く計算した。大道でやる場合は背中にも「眼」を付けて置かなければならないのである。
「コリャ、ワレェ、聞こえんのか。早く仕舞わんと大阪城の壕へブチコムゾ・・」
こういう場合、一呼吸置いた方が良いと言う事は長い経験で知っている。彼らの罵声を聞きながら太陽の方へにじり寄っておもむろにに振り向いた・・・
先ほどからヤイヤイ叫んでいるのは鉄砲隊の中でも、まだ一年生であろう。上は村会議員から下は国会議員までアジるのは一年生に決まっている。故に見え張りだろう。額の側面を異様に剃り込み、眉毛に刺青を書き込んである。馬車馬って言う所だ。そしてスキン・ヘッドの禿げ鷹、片目の丹下シャ膳、三白眼で下から睨みつけるサソリのような奴。そして一番後ろにいる男が葬儀屋だろう。全てを終わりにするからだ。
こうなると俺は自虐的に嬉しくなる。何故なら今まで無表情の連中ばかり似顔絵を描いて来た反動である・・・・・
|
|
|
|