|
2007/03/04(日)
40年前の美観地区日記より。 六十三回
|
|
|
誰が沸かしてくれたのか、木の香しい風呂に入れて貰って、部屋に入ると酒肴が揃えてある。
「さあ、さあ、遠慮はいらんぞ。まあ、一杯。ガタロウ、丁度いい。この焼酎は河童の誘い水といって、お主にピッタリじゃ・・・」
なるほど、イモ焼酎の名前が「河童の誘い水」で河童好物のキューリ漬けもある。 「ところで丸さん、先程からここでお子さん見かけたが何方のお子さんですか・・?」
「ああ、トシ坊か。俺が東京でお世話になった下宿屋の息子で同級生にイジメられ、登校拒否でひきこもりだよ、それで俺が預かっておる。都会ではこういう子が増えているの、解かるよ・・・親も親で富寿朗という過分な名前をつけおって・・・・全て期待大なんだよ。ここで俺が教え、暇なおりは近くの酒谷キャンプ場で使い走りしておる。皆に好かれて生き生きしておるよ・・・ウハハハハハッ」
そうか、人も環境しだいと思いながら・・イモ焼酎をグッと呷るとー曇、雲飛び去り、青山在りだ・・・・
「あの子も真面目な子だが、あの自殺したモダンアートの石田氏もあまりにも真面目すぎた。真面目な人間があんな所におると気狂いになる。気狂いにならなくとも他の奴が気狂いにする。狂人や自殺者が多くなるだけ、我々の文化が進んだ証拠と言ってしまえばそれまでだが・・・」
「ワシもしばらく東京に住んでいる間に、精神も肉体も疲れさせ、荒らされて心のツヤを失ってしまった。これは危険だと思った。ここへ来たのはワシの自然を回復する事。シンプルライフ。つまり素直で簡単な暮らしから心の平和を得られるのではないか。何より土に近い生活は精神的にも肉体的にも人間を健康にするし、それに孤独。人間は孤独において真の自我と存在の最も深い意義を見出すのではないか。まあ、こんな生活、君達から見れば現実生活からの脱落、逃避と言う消極的な意味しか持っていないように見えるだろうが、ワシにすれば一人集団から離れて山河草木の自然に自己を放つことが生の本源に帰一する生き方たと思っている」
俺が久しぶりの客人なのか、根っからの話好きなのか談論論風発・・・・だ。
俺はフト思った。・・・すれば前号で紹介したポンこと山田隗也氏のユートピアは、団体としての自然との共存共栄であり、丸尾氏のユートピアは個人としての自然との共存共栄であろうか、と。
|
|
|
|