美観地区から大道絵師のメッセージです。
箱の中でいくら立派な芸術活動しょうと、学ぼうと何等、この病的社会には不毛である。
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2007年2月
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2007/02/16(金) 40年前の美観地区日記より。 四十八回
「花時、風雨多し」と言う。

 まさにこの言葉通り、朝には晴れていたが、昼前より風吹き、雨打ちの天候になって来た。
 ここはK氏の好意で、その軒下を借りているのでさほど雨はかからないが、それにしても何処の馬の骨ともわからぬ乞食エカキに対して、親切を尽くして下さるのには、やはりその人自身の人徳であろう。
 いわんや今日は俺一人ではなく、広島の三原より熊ちゃんまで来ているのだ。

 俺は早速、そこの叔母さんを無料でニガオエを描いてあげた。これはちょっとした事であるが、その意義、効果は大きいのではないか。何故なら実人生は観念より行動だからだ。

 ところで熊ちゃんはここに来るのに汽車賃が二千円以上かかるので、少々の雨でも帰れない。セッセとダルマ禅師の肖像を模写しているのである。「無心、一切無心,以描為天」のごとくである。

 この熊ちゃんは禅門への行程については口をつぐんで語ろうとしないが、推測によると山田無文師との出会いからであるらしい。
 それまで彼は天理教や一燈園に出入りしていたが、山口県人特有の観念的で理想主義的情熱を癒してくれず、ひたすら只管打座に救いを求める事になるのだ。
 頭蓋骨の内部に巣食った苦悩の重さを確かめるかのように、彼らしく現実離れした奇妙な方法で・・・・己の意思で精神病院まで入院して面壁何年かを過ごすのである。

 世を軽薄に沈み浮いているクラゲ法師にすれば、鉄壁金山と悟りすまし安心立命に立つより、森羅万象に対し多情多根たれと言えないのだ。完全を現実に求めるのは最も危険な人生の愚拳だと言えないのだ。文化の行くてを教えるものは文明の怪霧のうちに潜んでいるデモンであると,言えないのだ。

 前の倉敷川ではミズモに雨が落ち、無数の輪が発生し消滅していく。人の生まれ死ぬ世の中を高速度で見たら所詮こんなものであろう。もうこうなればゾロゾロ前を通る観光客でさえ無意味に見え、それを眺めている俺も無意味であろう。しかし、このような宙の幻花はよろしくない。

 俺は急いで酒屋に駆けこんだ。


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