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2007/02/13(火)
40年前の美観地区日記より。 四十五回
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N ニガオエ浮浪雲・宮ちゃん
「スケッチブックをこ脇に抱え、住家構えぬ渡り鳥。ノレンをくぐって笑顔を見せて、エーお客さん、一枚いかが?暗い酒場の片隅が、涙で汚れたオイラの花道。義理もある。人情もある。心に哀しみ尽きねども今夜も笑顔で描きます。ああ、似顔絵人生さすらいは、酌めどもつきぬ酒ににて、終わりを知らぬ旅まくら。ああ、今夜はヤケに冷え込むなァー」
ニガオエ浮浪児こと宮ちゃんは、この歌のように北から南までニガオエの打ち込みをして露命を生きながらえているのである。 打ち込みとは飲み屋などにスケッチブックを持ち「ニガオエ描きませんか?」とひもじい声で酔客やホステスを描く、まあ言えば夜の首狩りエカキだ。
俺も昔、エカキくずれのキド・グンジという男に誘われ、新宿・歌舞伎町の飲み屋を首狩りした事あるが、キドは「ここでサ、池田満寿夫もニガオエを描いていたんだぜ」と言いつつ側の水道で頭を濡らすのだ。 なんでもその方がママや酔客に哀れを催させ、結構描かせてくれるというのである。たしかにその日は運が良かったのか、打ち込みとはこんなものなのか、出鱈目な絵でもチップまでくれるのだ。 しかし、嫌悪と泥酔とともに、二度と酔客や裏で赤んベェしている狐ママに、媚を売る幇間的演技はやろうと思わない。俺には描こう、描いてもらおう・・という云わば自由契約ができる大道の方が性分にあっているようだ。 宮ちゃんこの打ち込みの方がいいのか、冥土までこの旅を続けるつもりなのであろう・・・・・
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