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2007/10/22(月)
倉敷にがおえエレジー 題68回
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一時間も走ると小高い丘に農家を改造したアトリエ風の建物が見えて来た。バスを降り、丸太で土止めした段々を上がると、動くのか、動かないのか解からぬポンコツ車に古木が積んであり、あちこちに作りかけの椅子や机が散乱しておる。突然、犬の鳴き声で振り返ると見覚えのあるヒゲ面男が・・・ 「ヨウ、ガタロウ!こっちの犬がノムで、あっちの犬はネルと言って、ワシの分身じゃ・・」 大笑いで出迎えてくれるのだ。
誰が沸かしてくれたのか、木の香しい風呂に入れて貰って、部屋に入ると酒肴が揃えてある。 「さあ、さあ、遠慮はいらんぞ。まあ、一杯。ガタロウ、丁度いい。この焼酎は河童の誘い水といって、お主にピッタリじゃ・・・」 なるほど、イモ焼酎の名前が「河童の誘い水」で河童好物のキューリ漬けもある。 「ところで丸さん、先程からここでお子さん見かけたが何方のお子さんですか・・?」 「ああ、トシ坊か。俺が東京でお世話になった下宿屋の息子で登校拒否児でひきこもりだよ、それで俺が預かっておる。都会ではこういう子が増えているの、解かるよ・・・親も親で富寿朗という過分な名前をつけおって・・・・全て期待大なんだよ。ここで俺が教え、暇なおりは近くの酒谷キャンプ場で使い走りしておる。皆に好かれて生き生きしておるよ・・・ハハハハハ」 そうか、人も環境しだいと思いながら・・イモ焼酎をグッと呷るとーー曇雲飛び去り、青山在りだーー
「あの子も真面目な子だが、あの自殺したモダンアートの石田氏もあまりにも真面目すぎた。真面目な人間があんな所におると気狂いになる。気狂いにならなくとも他の奴が気狂いにする。狂人や自殺者が多くなるだけ、我々の文化が進んだ証拠と言ってしまえばそれまでだが・・・」
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