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2007/01/12(金)
40年前の美観地区日記より。 十六回
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アルコールに火照った頬に微風がまるで新しいシーツのように心地良い。ニコニコしながら俺も商売始めると、明るい乞食は貰いが多いは定石で次から次客があり、下手すれば横顔半額、後ろ向き無料、はらみ女は一倍半ともいいかねない勢いだ。 嵐が過ぎヒョイと見ると類は類を呼ぶというのか、知恵遅れらしい子が大きな瞳を据えて下から俺の顔を覗いている。知恵遅れとは現代風にいえばLDっ子となるそうだが、ノーベルもエジソンもLDっ子で別に悲観する事もない。頭を撫でてやりながら話しをしたが、親しまれればなかなか可愛いものであった。それを見ていたのか娘が俺の前に屈みこみ、一枚の紙切れを差し出す。
「消えたはずの言葉が、闇の中からよみがえる。消愛・・・死・・・詩、そして愛。アナタハキドッタ道化師ダ。黒ノスェターニ、ウス汚レタズボンニハ、真ッ赤ナスイトピーガニツカワシイ。キドッタ女ノワタシニ、タバコヲ一本ヲクレ」
ジーパンにダブダブの黒のセーター。長い髪、いやに赤い口紅が気にかかる。こういう時が自称色男?の辛い所であり、色んな妄想が去来するのが俺の悪い癖である。ところが娘はタバコに火をつけると「ありがとう、私はキチガイ・ペテト。あまり酒を飲まないで良い絵を描いてくだい・・・・」そう言ったかと思うと、長い髪をなびかせ、タバコに咽ながら有隣荘の路地に消えて行った。 ホタルみたいな娘だ。 これで俺の胸と・・下も・・?膨らむだけ膨らんだショボン玉が壊れて消えた。と同時に酔いも急速に醒めていく・・・・ そして思った。可愛い娘がたとえ一人者にしろ、汚い口ヒゲを生やしたニガオエ師と駆け落ちするはずがないじゃないか、と。暇で困っているときはそれは少しは相手してくれるだろう。それが最大限の好意なのだ。薬局?だなんて、図に乗るにもほどがある。 いいか、忘れるな、お前はルンペンエカキなんだぞ・・・わかったか!!
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