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2006/09/11(月)
大阪市立美術研究所・雑感 89
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この世の物象をよく究め了解する事においては、目下油絵技法の根本の仕事としては一般に先ず最初は素描、即ちデッサンの研究によって自然の形状、奥行、光、調子、といった事柄を探索するのが最も安全にして重要な仕事とされている。 即ち自然は如何に成立っているものか、地上にあるあらゆる空間、風景、動物、静物はどんな約束で構成されているのか、世界にはどんな調子があり、リズムがあるか、太陽の光はどんな都合に世の中を照しているのか、それによる色彩の変化強弱その階調等それらを如何にして画面へ現すものか、といった風の事を調べるのである。 それは、大都会の地理を調べる仕事である。都会で如何に何かを仕様としても、都会に対する常識なき者は、先ずモーロー車夫の手にかかるであろう。もしも女ならばうっかりしている間に何かに売飛ばされてしまうかも知れない。 あるいは親切そうな案内者によって、本願寺の石段は何段あるか、天王寺の塔の瓦(かわら)の類を暗記させられてしまうかも知れない。余談は別として、目下西洋画を勉強するものが必ず行う処の方法として、先ず最初に石膏(せっこう)模型の人像によって、木炭の墨、一色の濃淡によってそれらの物の形と線と面と、光による明暗の差別、空間、調子、遠近、奥行き、容積、重さに至るまでの事を研究了解会得して行くものである。それが素描の意味であり技法の基礎工事である。 話が大変科学的であるようだが、しかしながらこの科学が油絵の重大な原因ともなってその技術の底に横(よこたわ)っている事を忘れてはならないのである。この点において東洋画の技法とは根本的に差違ある処のものである。
尚、小出楢重の傑作「Nの家族像」は倉敷・大原美術館にありますよ。
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