美観地区から大道絵師のメッセージです。
箱の中でいくら立派な芸術活動しょうと、学ぼうと何等、この病的社会には不毛である。
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2006/10/03(火) 大阪市立美術研究所・雑感 103
  絵画き[#「絵画き」はママ]の日記

 油絵描きの日常生活というものは、それが順調であればあるほど実に単調きわまるものである。それは第一、生活が貧弱でなっていないからそれ以上何か面白いことがやってみたくとも出来ないことがその主な原因かも知れない。まずその日その日辛うじて無事に絵を描いて暮すことが出来ていれば、実にそれだけで、めでたき限りの順調といわねばならないのである。したがってどうも絵描きの日記などに大そう面白いというものはどうもあまりないようである。
 彼は起きた、モデルが来た、絵を描いた、仕上がった、あるいはてこずった、怒った、椅子を投げた、妻君が弱った、散歩してライスカレーを食べて機嫌がなおった、寝た、月末が来た、困った、何とかした、という位が私の毎日の日記かも知れない。
 こんなことが一生涯続くのかと思うと、あまり面白いものとは思えない、したがって日記などつける気にもなれない。がしかしこの単調な順序が一歩間違うともう絵が一枚も描けなくなるのである。
 例えば妻子家族の病気とか、あるいは恋愛関係、それから起こる喧嘩口論や悲劇やうるさい雑用が引きつづきどしどし起ころうものなら絵描きは休職だ。その代り日記は面白くなるだろう。
 文士などはその点結構だと思う。なるべく複雑でうるさい恋愛関係でも持ち上がってややこしければややこしいだけ多く神経が動き出し、やがては何か書けることともなり稿料ともなるわけかと思う。
 ところで絵描きはこんな場合、神経だけは文士と同じくらい昂ぶるけれども、その神経はかえって絵の邪魔をする神経であって、まったく作画のためには何の役にも立たないものであるから厄介だ。
 ロダンは賢い芸術家だから、人は二つの熱情に仕えることは出来ないといって、なるべく結構な問題が向こうから招待しても平に避けているのである。私の如きうっかり者は招待されるとついその手に乗りたがる傾向があるので大いに用心している次第である。
 それでまず近頃、私は辛うじて絵を描いて暮している。すなわち朝起きてそうして寝たというすこぶる平凡単調な生活を危いながらも大切に守っている。したがって日記として書き記すべき何事もない。
 ところが二、三日前から絵を邪魔する要素であるところの胃病が起こった。胃病が起こると必ず夢を見る。昨夜見た阿呆らしい夢を付録としてちょっと紹介しておく。
 一台の飛行機が西の空から飛んで来た。私は見ていた。それが近所の湯屋の煙突へ衝突したのだ。おやと思う瞬間、両翼はもぎれてしまって魚のような胴体がフワリフワリと中空を泳いでいるのだ。二人の飛行家がその上で狂人の如く駆けまわっているのがよく見えた。私はどうすることかと見ていると二人はパラシュートを持って飛んだのだ。一つは赤で一つは白だった。それが馬鹿に綺麗だった。そして二人とも電線に引っかかったのであった。下で見ていた群集の一人が電線はおかしいぞと叫んだ。しかし私はそれでほっと安心をして朝の九時まで寝てしまった次第である。


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